遠未来SF(人間が全員死んでいる)
寄せては返す、波の音。
気が遠くなるほど昔から、波はここに海岸線を築いていた。
打ち寄せた波は細かくなって散乱し、隣にまた打ち寄せては散乱し。
幾億年の、幾兆回というそのいとなみが、フラクタル状の複雑な曲線をなしているのだった。
しかしそれも、永遠のことではない。
その広大な海の底は、ゆっくりとしかし力強い活動によって支えられ、絶え間なく動いている。
陸地はそれにしたがって引きちぎられ捏ね合わされ、海岸線は縫い閉ざされる。
この水をたたえた岩の星は、かつてその名を地球といった。
名前を呼ぶものがかつてはあったが、ずっとずっと昔のことだ。
そのものたちが築いたものは、長い長い時間をかけて、砂粒となり、地層をなした。
この星の時間にとってはそもそもが、まどろみのうちの夢のようなものだったのだ。
名前のない山脈の向こうに、名前のない星座が、ゆっくりとのぼってくる。
いびつな影のある月が、水面にその姿をうつしている。