andante

2013-09-06

幻脳の声がする

なんですって
私は思わず叫んでいた
ですからお話ししたとおり私には脳がないんです
脳がないって馬鹿も休み休みにしてほしいいやじゃああなたは誰なんですか
幻肢という現象をご存知ですか
聞いたことがある事故で手足を失った者が失ったはずの手足の存在を生々しく感じ痛みさえ感じるというあの現象だ
それがあなたとどういう関係があるのですか
青年はぼんやりとやや下を向いていた視線をこちらに戻し意を決したように唇をきっと結んでからこう答えた
私は事故で失った脳の幻肢……これは幻脳というべきでしょうが……それを感じているのです
私は青年がなにを言っているのかわからなかった
ええと待ってくださいもしもあなたがほんとうに脳が無いんだとしたらその幻脳を感じることもできないはずですよね幻肢というのは簡単にいえば脳の不具合なのだから
ええですから幻脳を感じているのがその幻脳自身なのです
私はだんだん眩暈がしてくるのを感じたなぜそう思うんですか
デカルトはご存知ですか
ええ知っていますともわれ思うゆえにわれあり
そうまさにそれです私の脳は私に脳があると思っているそれゆえに私には脳があるのですしかし実際には青年は薄笑いを浮かべながら自分の頭を指差すこの頭蓋の中に脳はない
ちょっと待ってくださいその日の診察はそこでお終いとなった

一週間ほどして青年がまた訪ねてきたときには私はすでに彼への治療法を見つけていた
来なさい幻肢の治療に鏡が使われることは知っているかね
ええ失った左腕のところに鏡を使って正常な右腕を映してみせるそうですね
それを試そうと思うそう話しながら私は青年を奥の部屋へと案内するその部屋にはこのためにあつらえた特別製の大きな鏡が置かれている
見たまえこれが君の姿だ
はい私の姿が見えますでも……おかしいな先生が見えませんよ
そんなはずはないちょっとどいてくれたまえ
青年はその通りに場所をずらして私に正面を譲る
なんだ見えるじゃないかそこで私もおかしなことに気づくいやしかし今度は君の姿が見えなくなってしまった
最初からいなかったんじゃないですか青年が不気味なことを言う
まさかだって現にこうしてこうして話しているそう答えるつもりで後ろを振り返るとそこに青年の姿はないおかしいなとまた鏡のほうを向きそこに映った自分を認めたそのとき私はすべてを理解した最初からそんな人間はいなかったのだといやもしや
なんてこった……私は呆然と鏡をみつめながらつぶやいたそこに映る姿はもうない私はいったい……

その声を聞くものはなく打ち棄てられた部屋に埃の積もった静寂がただ横たわるだけであった

0906

大人になれないことはけっして罪などではないのだと僕は残りの人生のすべてをかけてでも宣言したいと思う


昨晩は結局五時ぐらいまで起きていましたなにをしてたのだっけああなんかUILabelのこととか調べて結局うまくゆかなかったのだったまあいいさ


お昼からバイトに先週から悩んでいた部分をようやくきれいに片付けられましたよかっただけどずいぶん手間を掛けてしまった僕はほんとうに正しい筋道を通っただろうかただ自分の中のうつくしい彫刻を作りたい気持ちに流されて繊細だけど無駄に時間の掛かることをしてしまったのではないか僕が僕に要求した精密さははたして必要なものだっただろうかそういったことを思ってしまいますまあでもとにかく課題は片付いたのだしこれでずいぶんプロジェクトの進捗には貢献できたはずだ社員のひとは社員のひとで面倒な問題を相手にしているみたいだったけど

僕もバイトに入って長いもう三年半になるかななんか来年就職することをどうも確実視されているっぽいのである程度の発言力を持っているのだけどそれはほんとうは出しゃばりすぎなのではないかと思うことがよくあります僕はあまり周囲によく思われていないのではないかみんなが思うけど言わなかったことを口に出してしまうそういう人間としてとらえられているのではないかそういう疑心暗鬼に取り憑かれます反証の出来ないことを信じるのは間違ったことだましてやそれで自分を苦しめるなんて言語道断だそう思うのですが信じてしまったことは信じてしまうのであり現に信じてしまっているのでしたはあ杞憂だといいなはあ

夜はお酒を飲んでいます圭様さんたちとの勉強会は明後日になりましたなので明日はちょっと予習をしましょう高校物理の範囲ってどんなのだっけなあっ相手は高校生じゃあないですからね謎の防御
今夜はまあすこし調べごとをしたり勉強したりって感じでしょうかねはー週末だ


ある種の青色が僕にとって色覚以上の心地よさをもたらすような気がしていますたとえていうなら眼の色覚の赤緑青の三色それに加えてもうひとつの感覚があってそれが刺激されているようななにか色ではないものを受信しているようなそういう心地よさを感じます
具体的には
https://twitter.com/necocen/status/341710998916460544/photo/1
とかとても好きな青色です

昼間バイトにゆく途中で脳のなかの幽霊を読んでいたら幻肢について腕が切断されたあと存在できるなら人そのものが肉体の消滅にたえて生き延びられないことがあろうかと言ったひとがいたと書いてあってすごい想像力だなと思いましたそれでちょっとふわふわと考えて幻脳というところにきてそれでなんかお話を書きましたそれをさっきまとめ直してちょっと変えたのが
http://ofni.necocen.info/1221
ですおもしろいかどうかわからないけどとにかく書けたので公開しておきます

そのお話でも書いていますが幻肢痛というものがあってたとえば事故で身体の一部を失ったときに失ったはずのその部分がちゃんとつながっているような触った感覚があるような気がしてしかもそれが激痛をともなうという病気だそうです僕が初めて幻肢痛のことを知ったときそのあまりに文学的な症状にそれを知ったのが小説だったせいもあって架空の病気なのだと長いこと思っていましたないはずのものという構造はすこし心をふるわせる性質がありますねないはずの心が涙を流すみたいに
さっきのお話に書いてあるようなわれ思うゆえにわれあり的な存在は僕の思う幽霊のかたちに一番近いものだと思いますなにとも相互作用しないただ自分はこの世に存在するのだとただ信じているゆえに信じているもしかすると人間は死ぬことなんてなくてただそういった存在に移るだけなのかもしれないそう思うとさっき引用した幻肢について人そのものについての考察は僕の思う死生観に近いところがあるなと思いましたそれだけ