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いろいろなことを考えて、だけど今日最初に書くことはこうなりました。研究がうまくいっていません。
そんなことは別にいいのです。僕は怠惰な人間だから。でも、それを咎められるのが恐ろしい。どうして僕は自分がちゃんと成果を出していないことを知っていながらいまこの瞬間も努力をしていないのか。努力することのできる時間はまだ残っているのにどうして僕はそれを使わずに成果が出ないと言っているのか。意味がわからない。この疑問の意味がわからない。
数日前から周囲に嫌われているような想像が激化しています。知っているんだ、僕はおおぜいに好かれるような人間じゃない。だから僕はもっと僕を隠して生きなくてはいけない。人間をやめて数字にならなくてはいけなかった。人間関係が新しくなるたびに僕はそれを試みて、だけど失敗している。僕は数字になりきれない。人数に1を加えるだけの存在になれない。僕がここにいるのだと、それを知らしめずにはいられない。それがどれほど他人を不愉快にさせるかも、それがどれほど望まれぬことかも、僕はもう知っているのに、僕はそれをやめられない。
こんなものは自己嫌悪ではない。
もうなにもしたくない。なにもせずにいることにも耐えられない。
やっぱり、いつまでも生きてはいられない。ありがと、もういいよ。
ほんとうはいますぐ大学なんかやめて、すこしだけ手許にあるお金でしばらく気候のおだやかな場所へ行って、ゆっくり本を読んで、ときどきコードを書いて、わかめスープをのんで暮らすべきなのだと、わかっています。そんなふうにしても、きっとしばらくはびくびくびくとしてしまってつらい気持ちになると思うけれど、一週間すぎて二週間すぎて、きっと一月もすればもう全部が手遅れ、つまり僕にはどうしようもない、僕が考える必要がない状態になって、そのころにはだんだんと楽な気持ちになっていると思います。でももう僕には戻る場所なんかないから、お金がなくなったらもうどうしようもありません。これ以上お金がいらなくなる方法は、一つしかないと、僕は知っています。
もっとよくないシナリオ。のんびりと暮らしはじめた僕は、ついにいろいろなものから解放されることができないままで、だんだんと買い物に行くのもこわくなって、誰かに命を狙われているような気分になって、家から出られなくなるかもしれません。そうかと思えば、夜中に突然目を覚まして、いますぐ逃げなくてはいけない気持ちになるかもしれません。そうなったら、完成です。
ああ、ああ、研究室の人に会うのがこわい。数字になりきれなかった、失敗した、だから僕はそれをあきらめて違うところにゆかなくてはいけない、どうかそのための勇気を。生きてさえいればきっといいことがあるから。いいことが。
家のまわりでペンキを塗っているせいか、部屋の中がずっとペンキの匂いです。服にも染み付いてしまったのか、今日は外にいるあいだもずっとペンキの匂いがしているような気がしました。最初は「おおっ、ペンキだ」と思うのですけどずっとそうだと頭がふらふらしますね。換気扇をつけているけど、あまり効果がないです。寒いし。
明日はなにをするべきなのだろう。ゼミの準備をしなくては。でも研究室にいたらきっとびくびくしてしまって集中できない。ああだけど歓迎会の出欠をとるのと、お店の予約をしなくてはいけない。僕が動くのが遅かったから、あまり人が来てくれなくて気まずいかもしれない、そうなったら僕はどうしよう。歓迎会が気まずいことほどつらいことはないぞ。ああそれに僕はどこの店をとるのがいいのか知らないし、二日前でも間に合うのだろうか(大丈夫だって先輩は言ってたと思う、だけどやってみなくちゃわからない)。間に合わなかったら僕はきっとつらい。いろんな人に嫌な気分を与える。もう手遅れだし、だからさらに強く確信させることになるだろう。嫌われ者の僕だ。
師匠の実験の手伝いとか、最近ぜんぜん行ってない。メールをちゃんと返事しなかったからかもしれない。師匠には愛想を尽かされつつあるのだと思う(これはあまり根拠がないけど、僕ならそうするかもしれない)。僕が悪いのは知ってる。
ここに弱音を書いたってなんにもいいことはないけど、これは勝利の記録のつもりだったし、敗北の記録にだって価値はあるだろう。その場合これがいつまでも残りはしないのが心配だけど……
日付が変わってしまった。三十分も無駄にしたってわけさ。そうして明日も眠いと言うのさ。