twenty minutes ago
二十分でなにか書くゲーム、本日は大学のコンピュータ室(もどき)からお送りしております。ただいまの時刻は17:44をさしたところですから終了時刻は18:04となりますね。バイトまでの暇つぶし。大学のmacは重たいから好きじゃない。
例によって書くことがない。雪のことを書こうと思います。初めて雪の日に遊びに出たとき、手袋をなくしたのでした。雪の中に手を突っ込んで、それから戻すと手袋が雪に喰われていたのです。雪解けを迎えても手袋の消息は知れず。手袋が失われたという事実はただ片方だけの手袋が寂しげに吊るされているという事実のみにより確かめられる。
何の話だかわからない。何の話でもないのに何かの話にしようとするからこうなる。だいたいこれでは日記と何の違いもないではないか。さっきから「なんの」がいちいち「何の」と変換されるのでいらだっている。おい、ことえり、お前は言葉のやわらかさとかそういうことを考えないのか。
そういう感じで、ただいま四分が過ぎているわけですが、なにかこう、人生の初期の記憶に関することを綴ってゆこうと思います。なにこの切迫感。試験みたいだ。
たとえばねこに引っ掻かれた話。そう、ねこに引っ掻かれたのです。近づいたら引っ掻かれた。それから、父に嘘をついた話。あの柱に蛇が巻き付く夢を見た、と嘘をついた。なぜそんなことをしたのかはわからない。父が僕に「夢って覚えているか」みたいなことを訊いたのだ。たぶん期待に応えようとしたに違いない。けなげな子ではないかと思う。それから日記のこと。十五年以上前に日記を書いている。簡単な絵日記。僕の描く人物はだいたい手足が長くゼンマイのように巻かれている。たぶん単にそういう線を書くのが楽しかったのではないかと思う。
なんか今日は調子がいい。機嫌が良いのかもしれない。そういうことを自覚するとちがってしまうから考えなかったことにしよう。うんうん。それでね、それでね、と彼は楽しそうに話すのだがわたしにはそれらが意味をなさない。おとうさん、きいてる?ああ聞いているとも。そうしてお前には想像もつかないやり方で聴いていない。お前の言葉は風の音のように通り抜けて、それからどこか遠くへ飛び去ってゆく。秒速34000センチメートルで。いま書いたのは音速のつもりですが桁があっているかはわかりません。十一分が経過している、いぇーい。
楽しかったことの話をしましょう。守るべき秘密を欠いた秘密基地。砂場に掘ったジュース工場。箱に描いたコンピュータ。ジャングルジムの宇宙船。ティッシュ箱のテレビ。雨どいを転がるドングリたち。それから、それから、それから。僕は憶えているんだよ、ブランコの鎖の一番下を持ったらひっくり返ったことを。いまの僕にはあれを定性的に説明してやれるんだ。君は医者に行って恐竜の消しゴムをもらっていたね。
小学二年生のいつだったか、クラスメイトの女の子の弟が死んだ。
家の鍵を三度なくした。水銀体温計を三度折った。小さな家出を三度した。
これくらい書けばいいだろう。そういって空を見上げる。空なんてものは実はなくて、蛍光灯が並んでいる。窓の外はどんよりしていて、雨が降っているのか窓ガラスが汚いのか区別がつかない。そろそろおしまいにしよう。さいなら。